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【裏】大奥

其の弐壱参 最終章 炎の中で


illustration (c)undercooled pio

兼光と滝沢の苦悩をよそに紅蓮と秀麗は今繋がろうとしていた。

充分に解された秀麗の秘めやかな蕾に紅蓮は己の熱を押し当てた。
「あぁ・・・・」その熱だけでも秀麗は熱い吐息を零してしまう。
「秀麗・・目を開けて」
ぎゅっと瞑った瞳がゆっくりと開いていく。
「あぁ・・・っ紅蓮様っ」

紅蓮の太い部分を咥え込んだ秀麗は喘ぎ肩で息を吐いた。
充分に解した筈だが秀麗の後孔は紅蓮の進入を阻んでしまう。
「秀麗、力を抜いて」苦笑しながら紅蓮に言われたが
秀麗はまるで初めての時のように緊張していた。

兼光との繋がりの時に何度も紅蓮には世話になったのに
見られる事が、触れられる事が恥ずかしくて、嬉しくて・・
そんな秀麗の腰を引き寄せながら、肉棒を埋めていく。
「あぁぁぁぁ・・・・っ」

紅蓮が秀麗の膝裏を押し広げた。
「あぁ・・紅蓮様・・・恥ずかしゅう御座います」
秀麗の瞳も頬も上気して桜色に染まっていた。
秀麗は体内の一番深い部分に紅蓮の熱を感じた。

「あぁ・・紅蓮様・・熱いです・・・・」
「私も秀麗の中が熱くて、もう蕩けそうだ」
紅蓮の頬も染まっていた。
下から見上げている秀麗はそんな紅蓮を見て「美しい」と思った。

今自分は紅蓮と深い所で繋がった・・・
「あぁ・・紅蓮様・・・このまま一つに溶け合いたい」
ただ繋がるだけが、こんなに幸せな事だとは秀麗は知らなかった。
その言葉に秀麗の中の紅蓮がぴくっと動いただけで秀麗は堪らなく甘い声を漏らしてしまう。
「あぁっ」
「秀麗の中は熱くて狭くて・・・・千切られそうだ」
少しだけ余裕の出てきた紅蓮が揶揄すると、その言葉に反応して又秀麗の中がきゅっと蠢く。

紅蓮がゆっくりと埋めた肉棒を引き抜き、そして再び押し戻す。
「あぁぁぁ・・」秀麗の喘ぎに煽られながらもゆっくりとそれを繰り返した。
「秀麗気持良いか?」
「もっ・・あぁ・・」
答えられない秀麗の体を揺さぶるように突き入れる。
「あぁ・・・気持・・・良いで御座います」

だが紅蓮の動きは止まずに秀麗の感じやすい場所を探り当て擦った。
「やぁぁぁーーーっ・・・・そこは・・」
感じすぎて涙が零れてしまう。
もう何度自分中で絶頂が訪れたのかもわからない。

この繋がりがどういう意味を持つのか知らない二人では無かったが
もうこの思いを止める事は出来なかった。

兼光を『せめて今宵は表で』と引きとめた滝沢が
お中臈に酒の相手をさせている間に秀麗に会う為に
初めて裏大奥に足を踏み入れた。
秀麗に会って此処を出て行くように言うためだった。

だが滝沢が見たのは、上様を誑かした上に他の男と繋がる姿だった。
夢中になっている二人は滝沢の気配に気付かないでいた。

『許せない・・』
体中の血が沸騰しそうな中、滝沢は手に持った行灯を襖に投げつけ
足早に表で酒を飲む兼光の部屋に戻った。
「どうした?少し顔色が悪いようだが?」
兼光に優しい声を掛けられたが、滝沢は
「上様が私にそれを言われますか?」とやんわりと言葉を返した。

「すまぬ滝沢」
「私も今夜は飲ませて頂けますか?」
滝沢の言葉に兼光が自ら徳利を持って滝沢に酌をした。
「さ、上様も今宵はとことん飲んで下さいませ。
明日からの事は暫しお忘れ下さいませ」

そう言うと滝沢は兼光を酔わすのが目的なように
どんどん酒を注いでいった。


紅蓮の胸の中で余韻に浸っていた秀麗が
紅蓮の背後が火のように紅くなっているのに気付いた。
「紅蓮様、火が!」
「そうだな・・・」
紅蓮は秀麗が気付くより早くに火の熱を背中に感じていたのだった。
「紅蓮様、どうして?」

紅蓮が突然天井を向いて
「芳!芳!いるのだろう?」と叫んだ。
すると何処に隠れていたのだろうか?闇の中から芳が姿を現した。
「秀麗を頼む」
「紅蓮様?紅蓮様も早く!火が回ってしまいます」

秀麗の言葉に紅蓮は優しく微笑んで
「秀麗、咎められたら私に手篭めにされたと言うのだぞ」
「嫌です!嫌で御座います、紅蓮様と一緒におります!」
すがり付き紅蓮から離れようとしない秀麗に
「秀麗・・愛おしい秀麗・・幸せになるんだ」
「嫌で御座います!秀麗は紅蓮様のいないこの世には未練は御座いません」

「秀麗・・・」穏やかな顔の紅蓮が優しく秀麗の名を呼んだが
その拳は秀麗の鳩尾に入った。
「ぐれん・・さ・・」
「芳!秀麗を頼む」

芳に向けられたその顔は芳が初めて見る男の顔の紅蓮だった。


その火事は裏大奥の半分を焼いて終息した。
風向きのお陰で表には何の被害も無かった事は救いだった。
表のお女中たちは、一体何処が燃えてるのかさえ判らなかった。
裏の小屋が燃えているという言葉を誰もが信じた。

まさか裏の世界があろうなどとは、表に住む女たちは考えもしなかったからだ。
火が広がった時に佐助の知らせで兼光が立ち上がったが
滝沢の命令で大勢の者が兼光を押さえ行かせないようにしたのだ。

「上様、あなた様は守られる立場に御座います、
そのような無茶はなりませぬ」
滝沢の言葉に兼光の体から力が抜けた。


「上様、芳が付いております故心配はご無用です」
芳と手の者で裏に住む者全てが安全な所に避難したとの事だった。
兼光は佐助の言葉を信じるしかなかった。

「秀麗・・」祈るような気持で見えない所で燃える裏を思っていた。
「これで良かったのです」
滝沢の言葉に兼光が振り返った。
「どういう意味だ」
「裏の大奥など要りません・・・」
強気な発言だが、滝沢の語尾も指の先も小刻みに震えていた。

「・・・滝沢?」
江戸には火事も多く、城も何度か小さな火事を出したりしていたが
今の滝沢の言葉には違和感があった。
「滝沢?」兼光の二度目の言葉に滝沢が兼光をじっと見詰めた。

「私が・・・私が」「言うな!」
激しい兼光の声に滝沢が一瞬怯んだ。
「上様・・?」
「それ以上は言わないでくれ」
火つけは重罪だ、今滝沢の口からそれを聞く訳にはいかなかった。

「私が滝沢を追い詰めてしまったのだ・・・」
「上様、違います・・私が私が・・」
興奮する滝沢を兼光が胸に抱きとめた。
「滝沢すまぬ・・・辛いかもしれないが、その言葉は一生噤んでくれないか?」
「上様?」
涙に濡れた顔で兼光を見上げると
「私は滝沢を母のように、姉のように慕ってきた・・・甘え過ぎていたのだな」

「何をおっしゃいます!・・・どうぞお裁きを・・」
「・・滝沢・・・お前は今のまま私の傍に一生いてくれればいい」
その言葉は兼光の本心だった。
今までどれだけ自分が滝沢に甘え、迷惑をかけ、
そして滝沢がどれだけ自分に尽くしてくれたかを
やっと判ったような気がした。

「裏大奥を閉じよう・・・」兼光の言葉に今度は滝沢が驚愕した。
「上様!私が・・私のせいで御座いますね」
「いや違う、そろそろ潮時だったのかもしれぬ」
「秀麗様は如何なさいます?上様が初めて好きになられた方で・・・」

秀麗憎しと火を点けてしまった滝沢だが、
秀麗が無事だと聞いて本心から安堵していたのだ・・

「私は秀麗を愛し過ぎたのかもしれない・・・」

「秀麗様を手放されるおつもりですか?」
「その方が秀麗も幸せだ・・」
兼光は秀麗を愛するが故に秀麗の気持ちが、秀麗以上に判っていた。
無理に開発させられた体は兼光を受け入れ歓喜の涙を零しはするが
心の底から兼光を求めていた訳では無い。

まだその事を秀麗が気付く前に兼光は気付いて
そして自分ひとりの者にしようと焦った。
全ては秀麗を愛し過ぎた事への罰のような気がした。

「上様・・・」まだ涙の止まらぬ滝沢に向かって兼光は微笑みこう言った。

「私は将軍、徳川兼光だ」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



芳に連れて行かれた寺で秀麗は目を覚ました時紅蓮の姿を探した。
寺中を探し回ったが紅蓮の姿は見えなかった。
そんな秀麗に芳は
「紅蓮は死んだ」とだけ告げた。

「・・・紅蓮様が・・・死んだ・・・・・・」

そう呟いたまま秀麗は気を失い、次に目が覚めたのは房総の民家の中だった。
「目が覚めたか?」
どうして此処に芳がいるのか、何がどうなっているのか秀麗には判らない。
「あの・・此処は?私はどうして此処に?」
暫くはこの房総でのんびり暮らせと芳に言われ戸惑ったが
大奥から離れた自分には行く場所も無い・・・・

秀麗は紅蓮を思い涙し、布団から出れない日々を数日過ごした。
「紅蓮は犬死にか?」
芳に冷たく言われ、やっと秀麗も自分が今何をすべきか考え出した。

今自分に出来る事・・・・
それは紅蓮にもらった命を粗末にしない事
そして二人の夢だった薬師になる事

芳の言葉を聞いてからの秀麗は生まれ変わったように動き出した。
昼間は山に入り、薬草や木の実を探して回った。
そんな秀麗の様子を芳はただ黙って見ているだけだったが
「もう一人で大丈夫だな?」
そう言われ、秀麗は頷いた。
「芳さん、今までありがとうございました」
次の朝起きると、もう芳の姿は消えていた。

秀麗の穏やかだが、寂しいひとり暮らしが始まった。
毎日山に入り、そして夕方になると房総の海を見下ろせる丘に座って
時には荒れ、時には凪いでいる海を眺めるのが日課になっていた。


あの火事の日からもう半年経とうとしていた。

いつものように秀麗は海の見える丘で海を眺めていた。
芳のあの言葉が無ければ、もしかしたら此処から身を投げていたかもしれない。

だが何をしてても、何処にいても思うのは紅蓮の事だった。
そしてこの場所が秀麗の許された場所のように、此処だけで涙を流す。
ひとり暮らす家で泣いたら、そこから這い上がれないような気がして
広い海にその涙を散らすように、ここだけで秀麗は泣いた。

「紅蓮様・・・・紅蓮様・・・・」何度名を呼べど紅蓮はもういない・・・


「紅蓮は死んだ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
秀麗は背後に人の気配を感じ立ち上がった。
だが振り向く事は出来ない。

その声の主を確かめたいと思いながらも体がピクとも動かなかった。

「だが・・・蓮三郎は生きている・・・秀麗待たせたな」

秀麗は振り向けず、ただ俯いてその懐かしい声を聞いた。
足ががくがく震え、止めどなく涙が溢れてきて仕方なかった。

夢でも幻でもいい、物の怪でもいい・・
何度そう願った事だろう・・・
だがこの声は愛しい男の声だ、聞き違える筈がない。

「顔を見せてくれないか?秀麗」
その言葉に秀麗は俯いたままゆっくりと振り返った。
「蓮三郎さまーーっ!」
涙でぐちゃぐちゃの顔で蓮三郎の胸に飛び込んだ。
「ああぁ蓮三郎様っ!」

生きてた!生きてた・・・生きてた・・

「秀麗、元気だったか?寂しくはなかったか?秀麗・・秀麗」
蓮三郎も力の限り秀麗を抱き締め、何度も名を呼んだ。
涙を拭き拭き見上げたその顔はもう紅蓮の顔では無かった。
少し陽に焼けた精悍な若者の顔だった。
艶やかな着物も着ず、紅もさしていない凛々しい男の姿だった。

蓮三郎は抱き締めていた腕を緩め、そして秀麗の唇に唇を合わせた。
二人は今までの時を埋めるように抱き締め合い、何度も唇を重ねた。

蓮三郎は、この半年焼けた大奥の再建の為に人足として働いていたらしい。
陽に焼けていたのも、少し逞しくなったのもそのせいらしい。
裏大奥は閉鎖され、秀麗の年季もその時をもって明けたのだが
蓮三郎は秀麗の残りの年季分を無償で働いてきたのだ。

「上様から預かってきた」
そう言って差し出されたのは、たくさんの医学や薬草の書物だった。
「上様・・・」秀麗が兼光を思って辛い顔をすると
「上様からのお言葉だ・・・秀麗幸せになれ」と。

「私は・・私は幸せになって宜しいのでしょうか?」
「それが上様の願いでもある」
「上様・・」秀麗は優しい兼光の胸の温もりを思い出していた。

「何処にいても上様のお力になれるんだぞ
俺たちがこれから勉強して、皆の為になる薬を作れれば
それがひいては、上様の為にもなるんだ・・・」
「はい・・」
「まだ泣くのか?」
「・・はい」
何時までも泣き止まない秀麗の肩を抱き締め
「さあ秀麗、俺たちの家に連れて行ってくれないか?」
少し揶揄するような調子に、秀麗が始めて笑みを浮かべた。

「今度小雪も遊びに来たいと言ってたぞ」
家に向かって歩きながら蓮三郎がそんな事を言った。
「小雪様が?」
秀麗の顔が少し曇るが
「あいつは今芳に夢中だ、芳も憎からず思っている」
だから小雪の事は気にするなと言いたいのだろう。

「ここです」
秀麗は元気に家の戸を開けた。
「長旅でお疲れでしょう、今風呂を焚きますね、上がってて下さい」
そう言い残し、秀麗は風呂場の方に消えていった。

蓮三郎は、質素な家の中を見回し、
こんな寂しい所で秀麗は半年も一人で
暮らしていたのかと思うと胸が詰まってきた。

嬉しそうな顔で戻って来た秀麗の手を引き寄せ胸に抱き締め
「秀麗、もう一生離さない」耳を擽るように囁くと
「はい、もう一生離れません」と少し頬を染めた秀麗が答え
そんな秀麗が愛しくて、抱き締める腕に力を込め
いつまでも二人ただお互いの温もりを感じるように抱き合っていた。



愛おしい秀麗・・・・もう二度と泣かせはしない・・・




その昔、女たちの大奥の裏にひとりの男の為に集う男の大奥があった。
そして今その裏大奥はひっそりと閉じられ、存在していた事さえ語り継がれる事はなかった。




<このお話はフィクションで御座いますので、BL重視でお読み下さい>
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