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【裏】大奥

其の弐拾弐


四つん這いになったまま顔を伏せている秀麗は身が震えるようだった。
あの声・・あの名前・・・
『紅蓮様・・・』
紅蓮だと判っても、顔を上げる事など出来なかった。

どうして此処に紅蓮が忍び込んでいるのかは判らないが
こんな格好を紅蓮に見られたくは無かった。

「何だかこの部屋は良い香りが致しますね」
紅蓮はわざとそう言い黒沼の気を惹いた。
「そうか?」流石に黒沼も簡単に阿片の事は口にしなかったが
紅蓮は引き下がらなかった。

「あぁ・・何だか変な気分になってきました」
わざとらしく、その胸を押さえながら妖艶な顔で黒沼を見つめた。
「何だ・・私にどうにかして欲しいのか?」
「そ・そんな事は御座いません」
紅蓮は恥じらって頬を染めてみせた。

「もう少し此処に居ろ、先にこの子で試してみるから、
男の味が良ければお前も気持良くしてやろう」
すっかり、紅蓮の罠にはまった黒沼に紅蓮は頷いた。
心の中でこの黒沼を八つ裂きにしながら、微笑んだ。

秀麗は紅蓮の意図する所ははっきり判らなかったが
自分を助けに来た事だけは感じられた。

「あぁっ!」
椿油を浸した指がとうとう秀麗の蕾を押し分けて挿入された。
「いやぁっ・・」
「なんと中の熱くて狭いこと!」
これは堪らないという声を出した黒沼はその指を中で動かした。

「あぁっ!お願いで御座います・・・抜いて下さい」

「黒沼様、私が・・私は慣れておりますから、私が致します。
黒沼様とあろうお方がそんな事はなさらないで下さい」

紅蓮の言葉に一瞬考えたが、
この美麗の青年と少年が絡むのを見るのも一考だと思い
「ではお前が受け入れられるように準備しろ」
そう答えると、秀麗の体から指を抜いた。

黒沼と入れ替わって紅蓮は秀麗の後ろに回った。
手に椿油を塗ると、その蕾の皺を伸ばすように丁寧に撫で上げる。
「あぁぁ・・っ」途端に秀麗の声が艶を増した。

「ほう、良い眺めだなぁ」
黒沼は酒の膳を引き寄せ、手酌で杯を傾けながら
目の前で繰り広げられる行為に没頭していた。

秀麗は紅蓮の指に安堵はするものの、
ここで紅蓮の名を呼んではならぬ事を知っている。
「あぁお止め下さいませ、お侍さま・・」
四つん這いになってる事が唯一の救いだった。

もし上を向いていて、紅蓮の顔を見たら自分は崩れる・・・
紅蓮の指が2本に増やされた。
紅蓮とて急いて、黒沼が早々に秀麗を貫くような事はさせたくなかった。
ゆっくりと壊れ物を扱うように愛撫を施していく。

ぐちゃぐちゃと油を付けた指を抜き差しする度に音が零れる。
「あぁぁ・・・っ・・・お願いで御座います」
阿片に犯された秀麗の体はもうとろとろに蕩けていた。

「まだ挿れられぬか?」
痺れを切らした黒沼が苛々した声を掛けてきた。
「もう少しお待ち下さい、この状態で挿れてしまっても
挿れる側も痛い思いを致します」

紅蓮の言葉に黒沼も小さい溜息を吐き、又酒を飲みだした。
そして「おい蓮三郎とやら、何故お前は慣れている」
黒沼はふと紅蓮が言った言葉を思い出して尋ねてみた。
「私も男が好きで御座います故」
「ほお」紅蓮の言葉に好色そうな笑みを浮かべながら内心では
『こういう美しい男同士を絡め見世物にしたらさぞ流行るだろう』
そう思いながら、酒を注ぎ足した。

そして紅蓮は秀麗の中に挿れた2本の指をくいっと曲げ
秀麗の良い所を集中的に攻めだした。
「いやぁぁぁぁぁ・・・っ!だめぇ・・・」
秀麗は無意識に喘ぎ悶えた。
『どうして?紅蓮さま・・・・』
そこまで自分の体を慣らそうとする紅蓮の意思が判らなかった。

「あぁあ・・そこはだめっ・・・」
抗う秀麗の声は艶かしく、その白い肌が桃色に染まっている。
固唾を呑む黒沼に向かって紅蓮が
「黒沼様、若い体を抱くには体力が必要で御座いますよ」と
黒沼を煽るような言葉を吐いた。

「ふふふ任せろ、私ほど精力的な男はおらぬ」
黒沼の自信たっぷりな言葉に秀麗の中が怯えたようにきつくなった。
そんな秀麗を四つん這いから仰向けに寝かした。

体の向きを変えてやりながら、黒沼に判らないように
秀麗の耳元で小さく囁いた「俺を信じろ」と。
その紅蓮の言葉を聞いた秀麗が安心したように力を抜いて
紅蓮に身を任せた。

待ちきれないような黒沼が煙管を取り出し、そして火鉢から火をもらい点けた。
その一段と香る匂いを紅蓮は嗅ぎ分けた。
『阿片・・』
そして秀麗を啼かせるように愛撫も休めない。

「あぁ・・っ・・」
黒沼が秀麗の艶かしい声に呆けている隙に天井裏に潜む芳に合図を送った。
あとは、暫く時を稼げばよかった。

紅蓮は秀麗にしか聞こえない小さな声で
「辛いだろう?」と優しく声を掛けた。
薬で敏感になった上の愛撫である、吐精したいに違いないと紅蓮は思っていた。
紅蓮の声に秀麗は首を小さく振ったが、
それが秀麗の強がりだという事は紅蓮にはよく判る。

紅蓮の片方の手が秀麗の中心に伸びた。
いやいやと首を振る秀麗の昂ぶりをそっと握り締め扱き始めた。
「やぁぁっ・・だめ・・お止めになって下さい」
もうそれは演技では無い抗いだった。

こういう状況で吐精することは浅まし過ぎる。
紅蓮が指を増やし秀麗は3本の指で後孔を掻き回される。
「達きなさい」紅蓮は小さな声で秀麗を促し
そして秀麗は紅蓮を見つめながら、四肢を震わせながら吐精した。

秀麗のそのあまりにも艶かしい痴態に黒沼が腰を上げた時に
ばーんと入り口が蹴倒された。
「何事だ!」驚いた黒沼が怒りの声を上げた時には
もう全てが終わた・・と言っても過言ではなかった。


全てが終わった・・・・誰もがそう思っていた。


秀麗が気がついた時は見慣れた部屋の中だった。
助けだされてから丸1日秀麗は寝続けていたのだ。
「秀麗気がついたか?」
「ぐ・紅蓮様・・・」

「もう大丈夫だ、良く頑張ったな」
紅蓮は愛おしいように秀麗の頬に手を当てた。
まだ不安が全部去ったわけではないが、
紅蓮の手の暖かさに秀麗の目からは涙がほろほろと零れ落ちた。

「上様は?」
秀麗は兼光が自分のせいで将軍の座を捨てるのでは無いかと
黒沼の言葉を思い出し焦って尋ねたが、紅蓮は優しく微笑んだまま
「大丈夫だ、先ほどまで心配して枕元におられたが
表にご用向きがあると言われて出掛けられた、今夜は戻れないとの事だ」

「上様が将軍の座を・・・」
「あれは黒沼を罠にかける為だ」
紅蓮の言葉に胸を撫で下ろしながらも、
黒沼の指の感触を思い出し、改めて身震いする秀麗だった。

「秀麗、此処を出ないか?」
「え・・・?でも年季が・・」
「秀麗がその気ならば、私から上様に掛け合うつもりだ」
紅蓮は秀麗をこんな危険な目に合わせた此処に秀麗を置いていたくなかった。

「秀麗・・これからの人生を私と共に生きぬか?」
「紅蓮様・・私は・・・私は紅蓮様が好きで御座います」
さっき自覚したばかりの心を紅蓮に打ち明けた。
「秀麗・・・」

紅蓮の美しい顔が秀麗の顔に近づいた。
「あ・・っ」秀麗の口から小さな吐息が零れる。
そっと唇を吸われると体の中に流れる血が熱く滾ってくる。
口腔に進入した紅蓮の舌に驚くが、何度も舌を追われると
いつの間にか秀麗もその動きに合わせ、そして絡め合った。

「あぁ・・・紅蓮様」
一度治まった体の疼きがぶり返してきた。
その思いは紅蓮とて同じ・・もう止められない。
紅蓮は秀麗を失うかもしれないと思ったあの不安を、
そして今秀麗が無事で此処にいるという確証を心と体で確かめたかった。

紅蓮の唇が項をたどり、そしてその手が秀麗の胸を肌蹴た。
「紅蓮様」驚き一瞬躊躇ったのちに秀麗は紅蓮の頬を指で触れ
「紅蓮様・・・秀麗を抱いて下さい」と請うた。

今の二人に裏大奥の禁忌など関係なかった。
ただただ体を繋げたいという一心で見詰め合った。
「秀麗・・ずっとお前を抱きたかった」

紅蓮の指先で小さな尖りを捏ねられ
「あぁっ・・」秀麗は甘い吐息を吐いた。
もうそれだけで絶頂を迎えそうに体の芯が熱くなる。
その唇が尖りを含み、舐め上げると秀麗の体の奥で火花が散った。
「あぁぁーっ紅蓮さまぁ・・・もう秀麗の体は・・あぁぁ」
体の奥底で迎えた絶頂は秀麗の体を朱に染め上げる。

「秀麗・・綺麗だ・・・何度でも気をやるといい」
そう言うと紅蓮は指と舌で秀麗の快感を引き出していった。



その頃、表で兼光は上臈御年寄の滝沢を前にある決意を話していた。
「上様!今何と!」滝沢は驚きの顔を隠せないで声を上げた。
「私は、将軍職を退いて秀麗と余生をのんびり暮らす」
今回の事件で兼光は秀麗を失う事の怖さを身にしみて知った。

「私は反対で御座います、何故にその秀麗とやらに拘られます?」
滝沢は兼光の心が判らないで
「たかが一人の色子に魂を吸い取られてしまわれましたか?」
時には母のように、そして姉のように兼光を支え仕えて来た滝沢には
兼光の言葉は裏切りのような気がして、悔しくて唇を咬んだ。

「他の誰にも判ってもらえずとも、滝沢お前だけには判って欲しい」
兼光とて、滝沢を姉と慕い、母と慕ってきた身だ、
どうしても滝沢には許してもらいたかった。

「上様は、3人のお子よりも、この滝沢よりもその秀麗を取ると言われますのか?」
子の事を出されると兼光も弱い。
好きで産ませた子ではない故に余計に不憫に思った。
自分が退く事でその子たちの人生にも影響を与えてしまう事は明白だ。

「上様、今一度お考え直しを・・・」
滝沢が膝を詰めて兼光に言い寄った。
「滝沢・・・」
兼光の膝に顔を埋め泣き崩れる滝沢の背を撫でながら
「滝沢・・お願いだ私の我侭を聞いてはくれぬか?」

背を撫でる兼光の手のひらの温もりを感じながら
滝沢の心は『秀麗憎し』と変わっていった。
「私はこれまで上様の望むままに此処を変えて参りました
それでも、まだ不満と言われますか?」

「滝沢すまぬ」
兼光の変わらぬ気持を聞いた滝沢は愕然とし、
涙も枯れてしまうのでは?と思う程に涙を流した。

『秀麗さえいなければ・・・』
滝沢がそう思う事を誰が止められようか・・・
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