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【裏】大奥

其の拾弐


3月にここ大奥に召された『春野』である。
勿論外の世界での名前は違ったが、この少年は元来の男色家であった。
年は秀麗より1つ上の17である。

その春野が半月振りに上様からの夜伽を命じられた事をとても嬉しく思っていた。
年季の明けぬ身では、他と繋がる事も許されない。
それは男色家の春野には辛いことだったのだ。


「上様、春野に御座います」
一時前に準備は済ませてある、その体は早く受け入れたくて疼いていた。
徳利を持ち、酒を注ぎながら春野は兼光の腿に手を置いた。

「上様、久しぶりで春野は待ち遠しゅう御座いました」
「そうか・・・」
春野の手がゆっくりと兼光の腿を撫で回す。
兼光はそっけない態度で酒を飲んでいる。
春野の手が兼光の合わせから中にすっと入り込んだ。

褌の上からそっと握ってみたが、まだそれは全く力が漲ってはいなかった。
春野は自分で育て上げるのが好きだった。
「上様・・・上様のを咥えても宜しいですか?」
潤んだ眼差しを兼光に向け、黙って頷くのを確認すると
その脚の間に身を置き、顔を埋めていった。

春野はさも美味そうに一物を咥え、手も添え懸命に奉仕した。
外から巧な刺激を与えられたら、兼光とて反応してしまう。
「春野は相変わらず上手いな・・」兼光の声が少し上ずっている事が尚更嬉しい。
春野は八分通り育ったそれに見惚れている。

「上様・・・すごい・・・・早く春野の中に・・・」
口淫する事で、春野自身も気持ちも体も昂ぶっていた。
「準備はしてあるのか?」
「勿論で御座います」
ここに来るのに準備などして来ない筈もないし、そんな奴はいないだろうと春野は思った。

兼光はふっと桐の箱を抱えて来た秀麗に思いを馳せた。
そしてその思いは八分の物を最大限にまで膨らませてしまった。
「あぁ・・・上様・・・もう春野は我慢できません」
そう言うと、両手を突いた。

その春野の着物を腰まで捲り、兼光は猛りを準備の整った後孔に押し当てた。
「ああ・・早く」この疼きを早く沈めて欲しいと春野は強請った。
兼光は春野の腰を引き付けると同時に自分の猛りを埋めて行った。

「ああーーーっ!あぁ凄いっ」久しぶりに受け入れる春野が歓喜の声を上げた。
ずずっと埋まる肉棒を腰を振りながら受け入れる。
「ああぁぁぁぁ・・・熱い・・・はぁっ・・・」
肉棒の全てが埋まる頃には、もう春野の物もぽたぽたと露を零していた。

「あぁ上様・・・すごい・・あぁぁ」
暫く待ったあと兼光の腰が動き始めた。
「あああっ・・あああっ・・・」
兼光の動きに合わせるように春野が嬌声を上げる。

春野の中は熱く蠢いているが、兼光が爆ぜるには何かまだ物足りないものがあった。
一方春野はいつもより長く中を擦られ、もう我慢できない程だった。
兼光の肉棒が春野の良い所に当たる。
「ああーーっ・・上様・・そこが良いです」
腰を振って強請る春野の良い場所を集中して攻めてやった。

「あぁすごっ・・あぁ・・上様気持ちいい・・・あぁ」
だが兼光が春野の前に手を伸ばす事はなかった。
両手を突いている体勢では自分で触れる事も出来ない・
それでも後孔を貫かれ続け、春野はだんだんと頭の中が真っ白になって来た。

「あぁ上様・・もう爆ぜそうで御座います。あぁ・・もっと突いて下さい」
その言葉に兼光が大きく腰を引き、そして激しく叩き付ける。
「あああぁぁぁ・・・うえさまーーっ!」
春野は今まで経験した事のない感覚に戸惑いながらも
貪欲に兼光の肉棒を求め、喘いだ。

吐精などしてない・・・だが後孔が痙攣するような感覚は爆ぜた時よりも強烈だった。
「あああああーー」
春野の中が兼光の肉棒に絡み付いてくるような感覚に
兼光はやっとその中に熱い物を放出した。

ずるっと自分の体から肉棒の抜ける感触も気持ち良い・・・
だがまだ吐精してない、自分の肉棒はとろとろと露を零している。
体を横たえ、自分で扱いた。
もう限界に近かった春野の肉棒から熱い物がドクンドクンと零れた。

そんな春野に向かい「お前も貪欲だな」と兼光は少し呆れた声で言った。
今まで兼光に扱いてもらった事など無かった。
だから自分でするのが当たり前ではあったが、その言葉が何故か春野を惨めな気分にさせた。

「春野、ここに来てどの位になる?」
突然尋ねられ「はい、六月めになります」と答えると
少し考えるようにしていた兼光が信じられない事を春野に告げた。

「春野、お前もそろそろ好きにして良いぞ、
私とて、表の暮らしもある・・そうそうお前を満足させてはやれぬからな」
「う・上様・・・それって?」言っている意味が判らない。
ここに来てまだ半年にも満たない自分はまだ年季が明けるまで間がある。

「お前もその体では熱を持て余してしまうだろう・・・
他の者に可愛がってもらえ」

ここでは1年の年季を明けたら自由の身であった、
残るも出るも本人が決める事だった。
年季が明ければ、他の者と繋がる事も許される。
1年の間は兼光への貞操を守らなければならなかった。

年季も明けないうちに「好きにしろ」と言われる事は三行半を叩きつけられたと同じような事。
「う・上様はもう春野を抱いては下さらないのですか?」
「いやそういう訳では無いが・・・私もそうそう体力が持たぬ」
春野には言い訳にしか聞こえない。

表の中臈の定員が8名・・そしてここがそれより1名少ない7名だ。
その中で年季の明けてる者が4人いた。
年季の明けてない者は秋で年季が明ける楓と、入ったばかりの秀麗だけだった。

「楓様は?」春野は楓は抱くのか?と聞きたかった。
「佐助に伝言を頼んだ故・・・楓も好きにすれば良い」
「・・・秀麗は?」
「秀麗?秀麗はここに来てまだ間もない」

兼光の言いっぷりは、何故秀麗が関係あるのか?と言いたそうだった。

『やはり秀麗は特別なのか・・・』
最近入ったばかりの秀麗にご執心というのは小姓から聞いて知っていた。
入ったばかりで、物珍しいのだろう・・くらいに軽く考えていた春野だった。
それにまだ春野は秀麗と逢った事は無かった。

春野にとってここは天国だった。
綺麗な着物を着て、食うにも困らない。
月々の給金も多いし、此処にいると使う必要も無かったから
どんどん手元に残っていった。

何よりも天下の将軍様に抱いてもらえる・・・
今更、外にいるそこいらの男になぞ抱かれたくは無かった。
今のこの生活を無くす事は春野にとって死ぬよりも辛い事だった。

この惨めさと焦り、そして屈辱感・・・全て秀麗のせいだ。
春野は自分の吐いた白い液を手ぬぐいで拭きながら
その怒りの矛先を全て秀麗に向けて行った。

その頃紅蓮が秀麗の部屋に行くと、秀麗は書物に夢中になっていた。
「何をそんなに一生懸命に読んでいるんだ?」
紅蓮の声に驚いて顔を上げる。
「あ、紅蓮様・・・薬草の書で御座います・・・昨日上様に頂きました」

兼光の献身的とも言える行動に呆れながらも
「秀麗は医者になりたいのか?」と尋ねた。
「私は薬師になりとう御座います」
「そうか・・・秀麗は頑張ってるな」

秀麗は強いと思った・・・それに引き換え自分は・・

そんな紅蓮に向かって「紅蓮様は、此処を出られたら何をなさるのですか?」
と聞いてきた。
何をするかなど考えた事などなかった・・・
小次郎が死んだと聞かされてから、自分は生きる目標も無くなって
ここで自堕落な生活を送っていた。

「もし・・もしもですよ・・」秀麗が少し躊躇いながら話してきた
「もし何もお決まりでは無かったら、私と一緒に薬の勉強をされませんか?」
「私が・・薬の?」紅蓮は今で考えもしなかった事を言われ驚いた。

「はい・・この世から病は無くなりません・・・だからせめて良い薬が簡単に手に入るようになれば・・・
そうすれば、小次郎兄様のような・・・」

秀麗は今でも、小次郎の布団の下から出てきた沢山の薬を思い出すと胸が痛んだ。
少しでも安く良い薬を病人に飲ませてやりたい・・・
だから今はここで頑張るのだと・・・

秀麗の気持ちは痛い程紅蓮にも判る、いや判り過ぎる。
「秀麗・・本当に私も一緒に?」
「はい・・だからあと1年・・・私は此処で・・・」
『上様に身を任せます・・・』それは秀麗の口からは出ない心の中だけの言葉だった。

「私にもその薬草の書を見せてくれるか?」
紅蓮の言葉に秀麗が嬉しそうな顔で「はい」と返事をする。
その後ふたりで夜が耽るまで夢中になって薬草の話をしていた。
紅蓮は新しい生きがいを今秀麗と共に見つけた。
時が来たら二人で此処を出よう・・・


紅蓮が自分の部屋に戻ると、待ってたように春野が尋ねて来た。
「どうしたんだ?こんなに夜遅くに・・・それに今夜は上様の夜伽では?」
夜伽をしたからと言って朝まで一緒に過ごす事などそうそうあるものでは無かったが
春野の暗い表情が気になって聞いてみた。

「はい・・・もう下がって参りました・・・上様が・・」
それ以上は唇を噛んでなかなか言おうとはしない春野を促した。
「上様が如何なされた?」
「・・・はい・・もう好きにして良いと・・」
紅蓮の眉間に皺が寄った。

「それはどういう意味だ?」
「上様は・・もう秀麗だけを可愛がられるおつもりです・・・楓も・・」
「楓も好きにしろと?」
「はい・・・・」

年季の明けない二人を自由にするという事は・・・
残るは秀麗だけだ・・・
紅蓮の顔も強張ってしまう。

「その前にひとつ聞くが・・・秀麗の鉢を壊したのはお前か?」
「何の事でしょうか?私は何も存じません・・」
春野は紅蓮の顔を見ないで言葉だけで否定した。

「・・・そうか、すまない」
「それより、私と楓はこれからどうすれば宜しいのでしょうか?」
「それは・・・・」
兼光の言葉は絶対だ・・
「従うしかないだろう・・・それが嫌なら此処を出て行くしかないだろう」
紅蓮とてそれ以外に言う言葉は無かった。
春野よりも衝撃を受けているのは紅蓮だったかもしれない。

「明日上様に確認してみるから、今夜の所は部屋へ帰りなさい」
「・・・はい・・・・でも私は・・秀麗だけと言うのは納得はいきません」
そう捨て台詞のような言葉を残して春野は部屋を出て行った。


次の朝、紅蓮は起きると直ぐに秀麗の部屋に向かった。
秀麗はもう起き上がっていて、庭を眺めていた。
「あ、紅蓮様・・・見て下さい」
嬉しそうな顔で言うから胸を撫で下ろしながら庭を見ると
そこには植え替えられた朝顔が元気な花を咲かしていた。

「昨日小姓さんにお願いして植え替えしてもらったんです」
「そうか・・・良かったな」
紅蓮はこの秀麗の笑顔を守らなくてはならない、改めて心に誓った。

「・・秀麗薬を・・・」日課になってしまった事だ。
「だ・大丈夫です・・もう痛くはありません・・」
「そうか?治ったのならば、上様を拒む事は出来ないぞ」
「・・・・薬を塗って下さいますか?」諦めたように秀麗が言う。

紅蓮の指の動きは優しい。
「あ・・っ」だがやはり中に挿入されるのは慣れない。
紅蓮の指は秀麗の内壁にもそっと軟膏を塗りつける。
「秀麗・・力を入れたら上手く塗れないから・・」
「は・はい・・・・・紅蓮様?」
「ん?どうした、苦しいか?」

「ぐ・紅蓮様は・・・此処に上様を受け入れて・・・気持ち良いのですか?」
秀麗の素直な質問に紅蓮は言葉を詰まらせる。
「・・・秀麗・・私は・・」
紅蓮は一度秀麗の前で貫かれていた。
あの時は半分は演技だとしても、気持ち良くないと言ったら嘘になる。

「秀麗・・私は・・」
「あっ・・ごめんなさい、変な事を聞いてしまって・・お忘れ下さいますか?」
此処に居る間は、受け入れる事に慣れてしまった方が楽だとは思う。
秀麗も何度も傷付く事もなく、体を開く事が出来れば・・・

それが楽だとは紅蓮も判っている
だが、秀麗が上様に組み敷かれ愉悦の声を上げる事は嫌だ。
秀麗に悦びを教えるのは自分でありたいと・・・

紅蓮は秀麗の体からそっと指を抜きながら
だが今自分がするべき事は秀麗を守る事だと自分に言い聞かせた。


それから2日何事も無く秀麗は書物を読みふけっていた。
紅蓮は春野の事は自分の考え過ぎだったのだろうか・・
そう思うほどに穏やかな2日だった。

だが、明日からまた兼光が表に行く。
「秀麗様・・」廊下の外から佐助の声がする。
秀麗の体がビクンとし、そして強張る。
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