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【裏】大奥

其の八


「秀麗・・・・」その声は秀麗の耳には届いていないようだった。
その秀麗の頬をツツーッと涙が伝った。
「小次郎兄様・・・・・」
「!」

紅蓮の耳に懐かしい名前が聞こえて来た。
「しゅ・秀麗・・・」
「あっ紅蓮様・・・」
涙を零した事が恥ずかしいのか秀麗が俯いた。

「今・・誰の名を呼んだ?」
紅蓮の口調が強かったので、咎められたかと秀麗は身を固くした。
「・・・小次郎兄様と?」怪訝な顔で紅蓮が聞いた。
「は・はい・・・申し訳御座いません」

「別に責めている訳では無い、そなたに兄が居たのか?」
「いえ・・従兄弟の兄様で・・・・」
「そ・それで・・・その従兄弟は元気で暮らしているのか?」
秀麗はどうして紅蓮が従兄弟の事を真剣な顔で聞くのか訝しく思ったが
「いえ・・3年前に病で」

「・・・3年前に?」
これは偶然なのか?それとも全くの他人の事なのか・・・
「その小次郎という男は何処で暮らしていた?」
「はい、私と同じ千住の長屋で御座います」

秀麗の言葉は紅蓮を動揺させるには十分だった。
「・・秀麗、お前の父は何を生業にしている?」
「はい、長屋で小さな町医者をしております」
「・・・・」
「紅蓮様?」

「秀麗・・何故お前はこの奥にやってきた?」
さっきから紅蓮は質問攻めだが、素直に秀麗は答える。
違う言葉を挟めない程に紅蓮の目が真剣で、そしてそれを怖いとも思った。

「紅蓮様、それを取って下さいますか?」
秀麗は横座りのまま動けないのであろう、小さな文箱を指差した。
紅蓮がその文箱を取り、秀麗に渡してやると、丁寧に蓋を開け中から1枚の紙を取り出した。

「紅蓮様、これを・・・」
紅蓮に向かってそれを差し出すから
「私が見ても良いのか?」
「はい、それが一番私の気持ちが判るかと思いますので・・」

その紙を広げる紅蓮の指先が小刻みに震えていた。

『秀麗へ

せっかくそなたの父が手に入れてくれたこの薬
飲んだとて、1日2日命が永らえるだけ。
治る見込みのある病人に飲ませてやって欲しい。

そして、もし秀麗のこれからの長い人生
どこかで袖振り合う事があったなら、伝えて欲しい者が居る。

蓮三郎にありがとうと。
そして、そなたは亀の如く時を過ごしてから私の元に来てくれと。

秀麗若いお前には理解出来ないかもしれないが、ただそれだけを伝えて欲しい。

                                    小次郎』

その文を読み終わった紅蓮の手がさっきよりも震えている。
「小次郎ーっ!」
悲痛な叫びに秀麗が驚いた。
美しい紅蓮の瞳からは堪えきれない涙が次々と零れて
頬を濡らし、着物の襟を濡らし、そしてぽたぽたと畳に涙の跡を残していった。

「・・・紅蓮様・・」
「小次郎ーっ」男がこんなに辛そうに泣くのを秀麗は初めて見た。
秀麗は父の仕事柄多くの死に対面して来た。
だから判る、紅蓮の慟哭が愛する者を失ったものだと・・・

「紅蓮様・・・もしかして?」

どの位そうしていたのだろうか?
どの位時が流れたのか紅蓮には検討も付かなかった。
ただ自分が秀麗を見て惹かれるものがあった理由が判った気がした。
従兄弟だ、どこか些細な所が似ていたのだろう。

紅蓮が落ち着いたのを感じると秀麗が独り言のように話し出した。

「小次郎兄様が亡くなった時、私はまだ13の子供でした。
寺子屋で手伝いをして、ほんの少しばかりの給金を頂いておりました。
小次郎兄様の布団の下から、沢山の薬とこの手紙が出てきた時は
子供の私も大声で泣きました。
父も無念だと泣きました・・・・」

秀麗は一息吐くとまた話し出した。
「紅蓮様は、どうして此処にと聞かれましたよね?
はっきり言って給金に釣られて参りました。
兄様のような方をひとりでも多く救いたい、父に無念の涙を零して欲しくない
おこがましいですが、そう思って此処に参りました。」

「秀麗・・・」
枯れるほど零した涙だったが、又新しい涙が紅蓮の頬に零れた。

「紅蓮様・・その文は紅蓮様がお持ち下さいますか?」
「私が持っていてもいいのか?秀麗宛だぞ?」
「はい、私宛では御座いますが、兄様のお心は蓮三郎様宛で御座います」

もう紅蓮が蓮三郎だと言う事は確認せずとも秀麗にも判った。

「紅蓮様・・・それなのに、私は昨夜・・・我を失ってしまいました。
小次郎兄様に恥ずかしいです。・・・・」
秀麗の涙の訳を聞いた紅蓮は、秀麗に近寄り、その細い肩をそっと抱きしめた。
「大丈夫だ・・そんなに自分を攻める必要はない、小次郎はそんな小さい男では無い」

「紅蓮様・・・・」
秀麗は紅蓮の胸にそっと顔を埋め静かに涙を流していた。

秀麗の肩を抱きながら
『恥ずかしいのは私の方だ・・外の世界に戻る勇気もなく
ただ此処で快楽に耽りながら流されているだけだ・・
小次郎・・・・きっとあの世で私の事を怒っているだろうな・・』
紅蓮はその心に秀麗だけは守って行こうと、そう固く誓った。

「秀麗様お目覚めですか?」廊下から佐助の声が聞こえた。
紅蓮は胸に抱いた秀麗をそっと放して
「目覚めておりますよ」と自ら襖を開けてやった。

「あぁ紅蓮様もお出でで、ちょうど宜しかったです、おいこっちへ」
廊下に並んで待っていた小姓たちは、それぞれ手に膳を持っていた。
「上様から仰せの食事と薬を持って参りました」
上様のご寵愛を受けた秀麗の待遇は昨日までとは打って変わっていた。

「これへ」そう言って小姓たちを部屋へ通すと。
「この南蛮渡来の飲み薬は食事の後に塗り薬は日に3回との事です」
「ありがとう御座います」と礼を言って秀麗は受け取るが
その顔に影が落ちたのは、紅蓮しか気づかない事だった。

ここでは南蛮渡来の高価な薬がいとも簡単に手に入る。
それは当然の事なのであろう・・・・

膳を置き薬を渡すともう佐助には用事はない
「では私はこれで、失礼します」と下がる佐助が紅蓮の泣いたような顔に目と留めた。
「紅蓮様、如何なされましたか?」
「・・・いや別に・・それより私の時よりも膳の数が多いな」
紅蓮のその言葉に藪蛇だと思ったのか、佐助はそれ以上問う事なく下がった。

佐助が居なくなると、紅蓮はおどけたように肩を竦めて見せた。
そこで初めて秀麗と紅蓮は顔を見合わせて小さく笑った。
「それにしても上様の秀麗への気持ちが良く判るな・・」
少し呆れたような声で贅沢に盛り付けられた料理の数々を見ていた。

「・・こんなに食べられないのに・・」小さく秀麗が呟いた。
「折角だから少しでも箸を付けてあげなさい」
紅蓮に言われ「はい」と又小さく頷いた。

「食事が終わったら、私が薬を塗ってあげよう」
「・・・はい」
その塗り薬が何処に塗る為の薬かは、流石の秀麗とて聞かなくても判った。
「・・はい、お願い致します」顔から火が出る程恥ずかしい気持ちで返事を返した。

昨夜の今朝でそう食欲が出る筈も無かった。
秀麗は早々に箸を置き「勿体のうございますが・・・ご馳走様です」と手を合わせた。
紅蓮はその秀麗の体調も気持ちも判るから何も言わずに飲み薬を差し出した。

暫くゆっくりした後「秀麗、薬を塗るからそこに横になりなさい」
紅蓮にそう言われ、秀麗は諦めたように敷いてあった布団に横になった。
「どのように?」秀麗は自分の取る体勢を尋ねたが
「そのまま仰向けでいいから」と言われ、天井を落ち着かない様子で見つめていた。

紅蓮が秀麗の正面に座り、着物の裾を捲った。
「紅蓮様・・・やはり恥ずかしゅう御座います」
秀麗は両手で顔を覆って紅蓮に訴えた。
「薬を塗るだけだ・・・そのまま目を瞑っておればいい」

秀麗にそう言いながら、紅蓮は秀麗の腰の下に折った座布団を差し込んだ。
その腰を突き上げるような体勢は秀麗の羞恥に拍車を掛けた。
更に手が届きやすいように、足を拡げさせられた。
「あっ・・・紅蓮様・・恥ずかしい・・」
自分のまだ幼い一物も薄い下生えも、昨夜散々兼光を受け入れた後孔までもが晒されている。

薬を指に取った紅蓮の指がその蕾にゆっくりと軟膏を塗っていく。
ぞくっとする感触に秀麗は顔を抑える手に力を込めた。
「秀麗、思ったよりも腫れてはいないな・・・若さ故の回復力なのか・・」

「中も塗ろう」
その声に秀麗がビクンと体を強張らせた。
「秀麗、力を抜かないと中まで塗れないぞ」
「は・はい・・申し訳御座いません」
秀麗は紅蓮が薬を塗ってくれてるのに、申し訳ないと思いながら、肩の力を抜いた。

軟膏の滑りを借りた指はプツンと後孔に進入して来た。
「あ・・・っ」
顔を覆っていた秀麗の手はいつの間にか、敷布を握り締めていた。
紅蓮の指の動きに色々な意味で秀麗は堪えていた。

「あぁ・・・・っ」紅蓮の指の動きに秀麗の甘い声が上がった。
「ぐ・紅蓮様・・・まだで御座いますか?」
「まだ奥まで終わってないから、もう少し辛抱ておきなさい」
紅蓮にそう言われてしまえば、秀麗は何も言い返す事は出来なかった。

半ば勃ち上がった自分の性器を秀麗が手を伸ばしてそっと隠した。
そんな秀麗の態度に紅蓮が口元を緩めた。
紅蓮は秀麗の体の変化に気づかぬ振りをして、
「さあ、これで良い」と秀麗の後孔から指をそっと抜いた。

秀麗は身を起こし、紅蓮の顔を見ないように
「ありがとう御座いました」と礼を述べた。
「いや、又後で塗ってやろう」
そういう紅蓮に秀麗が目を伏せたまま
「いえ、後は私が自分でやりますので、大丈夫で御座います」と辞した。

「遠慮しなくていい、自分では届かないだろう?」
「・・・紅蓮様は意地悪でございます・・・」
「・・・秀麗悪かった」
本当はこの指で秀麗を満足させてやりたいと思っていた

途中までは・・・
だが、もし自分が止まらなくなったらどうする?
上様のご寵愛を受けたばかりの秀麗に手など出せない。

「秀麗・・悪かったな、もし自分で無理だったら小雪でも呼ぶといい」
ただその言葉だけを残して、紅蓮は秀麗の部屋を後にした。
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